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「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」
――2023年度 海外直接投資アンケート調査結果(第35回)――
 
株式会社国際協力銀行 企画部門 調査部
中島 隆志
 

1.    今年度調査のポイント

 

 株式会社国際協力銀行(JBIC)は、「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」を発表した。
 
今年度調査での最大のポイントは、毎年実施している有望国ランキングで昨年度中国を抜いたインドが中国をさらに引き離し、2年連続の首位を維持した点である(図表1)。その中身も今回は大きく変わっており、インドを有望とした企業のうち45.8%が新規投資または追加投資に係る事業計画があると回答し、昨年度と比較して8.3ポイント増加した。これまでの「イメージ先行」から脱却しつつあるとみられる。
 
昨年度インドに抜かれ2位となった中国は、米中対立の長期化・中国経済の減速など、さまざまな懸念の高まりを背景に、今年度はさらに10%ポイント近く得票率が減少し、3位となった。脱中国に向けた動きととれる。
 
米国は、市場の成長性や将来性という点での評価は高いものの、足元の労働コストの上昇などが響き、得票率の減少に繋がった。米中の得票率の減少分がASEAN上位国やメキシコ等に分散し、特にメキシコは日本企業にとって米国のニアショアリング先として期待されている。
 
 今年度初の2位となったベトナムについては、米中の得票率の大幅な減少で順位を上げた。実際、得票率でみればほぼ横ばいだ。ただし、ベトナムは、昨年度も4と日本企業のアジアでの海外生産拠点として安定した支持を集めていることは確かで、今回も脱中国の受け皿への期待にもつながったとみられる。
 
今年度調査では20237月に調査票を発送し、9月にかけて回収したもの。(対象企業数987社、有効回答数534社、有効回答率54.1%)。
 
図 20
(図表1:中期的な有望事業展開先国・地域)
 

2.    有望国ランキングにおけるブラジルの位置づけ

 

ブラジルは、本調査の有望国ランキングで昨年度より順位を2つ上げ、11位にランクインしている(得票率:4.3%、昨年度比+0.2ポイント)。
 
回答企業のうち、ブラジルに生産拠点を有している企業は51社で、業種別にみると化学(11社)、自動車(10社)、電機・電子(6社)、一般機械(6社)が多い。今年度調査でも販売拠点数(61社)が生産拠点数を上回るブラジルの特徴は継続して確認することができた。
 
業種別にみると化学(5社)が最も多い結果となった。企業がブラジルを有望視する理由としては、「現地マーケットの今後の成長性」(64.7%)、「現地マーケットの現状規模」(58.8%とマーケットへの期待が高いことがみてとれる結果となった(図表2)。課題については、「法制の運用が不透明」、「税制システムが複雑」の回答割合が昨年度よりも減少し、日本企業にとって進出しやすい環境が整えられつつあることが、順位を2つ上げる要因になった可能性がある(図表3)。一方、「他社との厳しい競争」や「労働コストの上昇」は昨年度よりも割合が増加しており、注視が必要である。
 
 長期的有望事業展開先国(今後10年程度)では、昨年度よりも一つ順位を上げ、10位という結果になった(図表4)。業種別でみると化学業界からの得票率の割合が最も多い。世界最大の農薬市場であるブラジルにおいて、主要作物の作付面積が拡大していることもあり、農薬需要は順調に推移している。
 
 
図 7
(図表2:ブラジルの有望理由の推移)
図 8
(図表3:ブラジルの課題の推移)
 
図 2
(図表4:長期的な有望事業展開先国・地域)
 

3.    ブラジルの強み

 
 ブラジルは南米で人口が最も多い。経済もコロナから回復基調(IMFによると202310月時点では2023年度の経済成長率3.08%と推計されている)にあり、年齢中央値も35歳(2022年)とまだ若く、経済面・人口面からみても成長市場である。今後、世界経済をけん引するグローバルサウスの一角として、世界から投資を呼び込むという観点からそのマーケットの成長性などが期待されるほか、2025年のCOP30開催国として、気候変動への取り組みも加速させるとみられる。
 
また、産業面でみれば、ブラジルは農業大国である。一般の食用に加え、世界的な脱炭素に向けた「バイオエタノール」なども加味した農業生産・農薬需要の拡大は、日本の化学メーカーにとっても事業拡大の機会となることが期待される。
 
また、ブラジルの自動車業界ではガソリンへのエタノール混合が義務付けられており、2015年以降、エタノールが27混ざったガソリンが販売されている。実際、日本の大手自動車メーカーが、エタノール、ガソリン、混合燃料のいずれでも走るフレックス燃料ハイブリッド車を現地で近々製造開始すると発表しているが、こうした動きは加速するとみられ、今後も引き続きブラジル自動車業界の動向にも注目していきたい。
 
 
2023年度「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」全文は下記リンクからご覧いただけます。
 
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