在日ブラジル商工会議所は毎月会員の皆様あてにニュースレターをお届けしております。3月号には、エドゥアルド・サボイア駐日ブラジル大使が海外投融資情報財団(JOI)主催のセミナーで行った講演内容をJOIがまとめた記事を掲載しました。講演で大使は昨年1年間のブラジル国内の動向について振り返りました。
2020年1月23日、海外投融資情報財団(JOI)は、サボイア駐日大使の着任約1年を契機として、日本ブラジル中央協会、在日ブラジル商工会議所、国際協力銀行(JBIC)の後援を得て、駐日ブラジル連邦共和国大使館との共催で表題のセミナーを開催いたしました。本稿では当日の概要をお届けします。(文責:JOI)
この1年を振り返って
エドゥアルド・パエス・サボイア
(駐日ブラジル連邦共和国大使)
–
ブラジルの構造的特徴
2019年1月のボルソナーロ政権発足から1年が経過した。本日は、この間の政権の成果を振り返りつつ、ブラジルの経済情勢や投資先としての魅力を考察してみたい。
ブラジルの構造的特徴として指摘すべきは、第一に、人口(2.1億人)、国土面積、GDPがそれぞれ、世界第5位、同5位、同8位と、大規模なことである。これらはそれぞれ、労働力、土地、資本の各生産要素に当たり、その規模の大きさは投資先としての優位性を示すものである。ブラジルが世界有数の直接投資受け入れ国であることは、偶然ではない。
ブラジルは2015~16年にかけてマイナス成長に陥るなど長引く不景気を経験したが、それでも直接投資の流入は、2010年以降世界のトップテンを維持していた。2019年の流入も、世界全体で対前年比減少が見込まれる状況下、同26%の拡大を示したと推計されている。
特徴の第二は、農業大国であることだ。農業輸出は米国、EUに次ぐ世界第3位となっている。2018年にアグリビジネス関連輸出は1000億ドルを突破した。大豆、砂糖、オレンジジュース、牛肉の輸出は世界第1位、とうもろこし、鶏肉は同2位である。ブラジルは違法伐採禁止をコミットするなど、持続可能な開発に取り組んでいる。畜産業では、生産性の向上により、放牧地の減少にもかかわらず生産が拡大している。なお、農業や畜産業はアマゾン川流域から離れた地域で行われている。また、国土面積の41%が環境保護地域となっている。
第三は、エネルギー大国であることだ。エネルギーミックスでは、水力や地熱・風力、バイオ燃料といった再生可能エネルギーが82%を占め、バイオ燃料先進国である。ちなみに、世界平均の再生可能エネルギーのシェアは24%である。日本は、原子力と再生可能エネルギーの合計で23%のシェアを占めるが、今後の再生可能エネルギーの利用拡大について、ブラジルはよきパートナーとなろう。
化石燃料については、今後20年以内に石油・ガス生産の世界第5位以内への拡大を目指している。
電力セクターでは、民間資金による新規投資の拡大や電力公社の民営化を計画している。ガスセクターでは、上流の鉱区開発のみならず、中下流の対外開放を進めている。
このほか、金属鉱物鉱石の生産も活発で、鉄鉱石の生産は世界第3位である。鉱業セクターでは、は2022年までに220億ドルの投資を見込んでいる。航空機産業も発達しており、航空機は主要輸出品となっている。
改革の進展とマクロ経済の改善
ブラジルの制度を支える3つのコンセンサスとして、①民主主義と法治国家、②マク ロ経済の安定、③社会政策の充実がある。これらは、現在進行中のOECD加盟のプロセスで強化されていこう。
ボルソナーロ政権は、包括的マクロ経済改革として、生産性を阻害する国家の役割の縮小に着手した。民間の自由競争を促進し、経済の活性化や、雇用および所得の拡大を目指している。2019年8月には経済的自由法が制定され、小規模企業の設立ライセンスを不要とするなど、企業の設立・運営に関する手続きやコストの縮小を図った。さらに、信用供与における公的金融機関の役割の縮小に向け民営化を推進するほか、外資規制の緩和も行い、航空運航サービスへの外資出資規制を撤廃した。
2019年6月には、20年の長きにわたる交渉の末、メルコスールとEUの自由貿易協定が暫定合意に達した。
2019年11月、年金改革法が施行された。これに伴い、今後10年間に22兆円相当の歳出削減効果が見込まれることになり、公的債務の持続可能性が確保された。
このような改革の進展を受け、マクロ経済指標も改善を示している。2019年第3四半期の実質GDP成長率は1.2%と、緩やかながら着実な景気の回復がみられる。一方、2019年通年の拡大消費者物価上昇率は4.31%と、目標の4.25%に対して許容範囲内に抑制された。政策金利は4.5%と、歴史的低水準となっている。銀行与信も拡大している。ブラジル債券の信用リスク指標であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のスプレッドは99.4ベーシスポイントと、対前年同期比45%低下し、2013年以来の低水準となっている。
今後の改革
懸案の年金制度改革が実施されたことで構造改革に弾みがつくなか、今後の課題としては、第一に、連邦協定改革がある。連邦国家から州や市の地方政府への資源移転を容易にし、予算管理を柔軟にする連邦協定憲法補足法案が上院議会に上程されている。
第二に、行政改革である。能力主義を強化し、技術革新への対応を進める計画である。E-governanceを推進し、各種手続きをポータルサイトから行えるよう、簡素化・効率化を図っていく。
第三に、税制改革である。国税について連邦付加価値税への集約を図り、税体系を簡素化していく。
第四に、民営化である。政府は、公営企業の民営化プロセスを迅速化するための憲法改正案を提案している。2019年1~10月期には、民営化(コンセッション方式を含む)による公的資産売却で962億レアル(220億ドル相当)を調達した。しかしながら、連邦政府による出資企業は依然として637社にのぼる。今後も引き続き、コンセッション方式による大規模なエネルギーやインフラ投資が予定されており、魅力的な事業機会が提供されよう。
さらに、貿易・投資の拡大を図るべく、国内市場を段階的に開放するとともに、各国との自由貿易協定や経済連携協定の締結を加速する意向である。今後数年間で、貿易の対GDP比率を現状の22%から30%にまで拡大したい。
日本への期待
ボルソナーロ政権下で進む経済の対外開放と成長の新しいサイクルに、日本の参加を期待するものである。2019年1月のダボス会議において、同大統領と安倍首相が初めて首脳会談を行った。日伯間の経済連携協定締結に向けて、その基礎となる影響調査の開始にこぎつけたい。米国、カナダ、EUといった農業輸出大国と同一の競争条件を整えることで、対日農業輸出の拡大を目指したい。
日本の対ブラジル投資は近年、減少傾向にある。日本は第6位の対ブラジル投資国である。ブラジルには、進出日本企業のネットワークがすでに構築されており、新規投資もソフトランディングしやすいと思われる。また、インフラ投資では、高品質で洗練された日本からの投資をブラジルは高く評価している。二重課税回避のための条約も締結済みであり、今後の経済連携協定の締結は、日本企業にとって投資誘因をいっそう高めるものとなろう。
日本とブラジルは地理的には遠いが、人的交流は深い。本年は在日ブラジル人コミュニティーが形成されて30周年を迎えるが、その数は20万人となっている。ブラジルは2019年に、日本に対する観光・ビジネスビザ免除措置を実施した。日本にも、ブラジルに対するビザ免除措置を期待するところである。