在日ブラジル商工会議所は、毎月会員の皆様あてにニュースレターをお届けしております。6月号では、ブラジルの電力分野への新型コロナの影響について、トジーニ·フレイレ法律事務所パートナーでインフラ·エネルギー担当のペドロ·セラフィン氏(写真)に解説していただきました。
ブラジルの電力分野 ー コロナ後の展望
ペドロ・セラフィン氏
トジーニ・フレイレ法律事務所パートナー インフラ・エネルギー担当
中国の生鮮市場を発生源とする新型ウイルスによるパンデミックが起こる可能性については多くの人が予想はしていたが、日常生活や経済、政治、国際関係などにこれほどの影響が出ると考えていた人は少ない。
新型コロナウイルス感染拡大の抑制のためには強硬な隔離政策が有効な措置であることは否定できないが、こうした手段は様々な分野で活動中止を強制することになり経済に及ぼす影響は大きい。
ブラジルでは、新型コロナウイルス感染症対策に関する意見の相違から連邦政府と州政府、地方政府が対立し、国はこうした事態によってもたらされた問題への対応を迫られている。国境を再開し、隔離解除後の復興に向けた準備が整っているように見受けられる国もある一方で、ブラジルの新型コロナ感染のピークは(本原稿執筆現在の)楽観的な予想でも7月上旬以降となり、隔離緩和は8月中旬以降となる見込みだ。こうした状況の中、ブラジルの今年のGDPは大幅に落ち込むと見られている。
電力分野でも新型コロナによる影響はすでに現れているが、長期的な影響の懸念もある。
ブラジルでは国家電力庁(ANEEL)が実施する入札によって、電力を買取り配電する業者が決定するが、隔離政策による休業や商業ビルの閉鎖で電力消費が最大20%ほど落ち込んだため、ANEELは今年予定されていた入札2件を中止した。.
電力業界の財務状況の健全性を維持するため、ANEELは配電業者向けに総額160億レアルの融資を行なっている。また電気料金に上乗せする形で「Conta Covid」と呼ばれる負担金の徴収も検討(本原稿執筆時点では協議中)されている。
隔離緩和後にどの程度エネルギー需要が回復するかは予測不可能だが、ANEELは規制最新化により電気業界で新たなビジネスチャンスを創出する準備を進めている。また今後は電力購入契約(PPA)を結ばずにスポット市場に特化した発電所が増加すると見られている。
ブラジルの国土面積や全国レベルで統一された電力系統を有する点などから、今後も新たな送電事業の入札が引き続き実施されることになると考えられる。また新規の発電事業者との契約締結のための入札もまもなく再開すると見られる。事業の実現には数年単位の時間を要するため、ANEELとしては需要の増加を察知でき次第、新規契約を締結できるようにしておく必要がある。
それに加え、ブラジル政府は電力公社エレトロブラスの民営化や、数10億レアル規模の収益が見込まれるアングラ3号原子力発電所の民営化に積極的な姿勢を示している。
これらはすべて現時点では保留案件となっているが、近い将来ブラジルは日本企業を始めとする海外投資家を対象とした投資機会を再び創出するようになるだろう。