在日ブラジル商工会議所は、会員の皆様あてに毎月ニュースレターをお届けしております。2月号では、アマゾン資料館所長の山口考彦氏にご寄稿いただきました。ベレン生まれの同氏の父、吉彦氏は南米アマゾンで多くの資料を収集しました。
(寄稿)
アマゾン資料館 代表理事 山口孝彦氏
アマゾン資料館へようこそ!
広大なブラジルの国土の半分以上を占めるアマゾン。この地名を聞いて、皆さまはどのような情景を思い浮かべますか?生い茂る壮大なジャングル、対岸が見えないほどの大河、生命力あふれる多様な動植物、そして自然と共生し、精霊への信仰を大切にする先住民族の文化。アマゾンはこれらすべてを内包する神秘の地です。そして、この壮大なアマゾンの世界が、日本の山形県鶴岡市に保存されていることをご存じでしょうか?
アマゾンへの情熱が生んだ資料館
私は山形県にある鶴岡市に暮らす山口考彦と申します。私の人生は、アマゾンとの深い関わりの中で育まれました。というのも、私の父・山口吉彦が、アマゾンの生物や先住民族の文化を研究するためにその地に渡ったからです。私自身、ブラジルのベレンで生まれ、幼少期をアマゾンの大自然の近くで過ごしました。
父は幼い頃からアマゾンに魅了され、その生涯を通じてアマゾンの研究と資料の収集に情熱を注ぎました。ブラジルやペルーなどを訪れ、動物の剥製や昆虫標本、先住民族の工芸品、生活用具など多岐にわたる資料を集め、その数は実に2万点以上にも上ります。
これらの資料は、1980年代後半から2014年にかけて、鶴岡市内の「アマゾン自然館」と「アマゾン民族館」で展示され、地域の観光振興や文化交流の一助となりました。しかし、行財政改革の波の中で両館は閉館。それでも、父が遺したアマゾン資料の魅力に心を奪われた人々は今なお多く存在します。
父が集めたこれらの資料は、単なる研究の副産物や収集物ではありません。それらは、人類と自然との関係性を問いかけ、私たちがどのように地球上の多様な文化や自然と共生していくかを考えるきっかけを与えるものだと信じます。
致道博物館での市民参加型展示
2024年、鶴岡市の文化的シンボルである致道博物館から「探検!アマゾンワールド」展の開催オファーを受けました。この展示企画を聞いたとき、私はこれを単なる学術的な展示に終わらせたくないと考えました。そこで、市民参加型のユニークな試みにすることを提案しました。
公募した結果、0歳の赤ちゃんから70代の大人まで、幅広い年齢層の約40名が「探検家」として参加しました。参加者たちは、アマゾン資料に直接触れ、それを通じてアマゾンの自然や文化を自分の感性で体感しました。そして、その後のワークショップで発見や気付きを共有し合い、最終的には彼らの視点やアイデアが展示内容に反映されました。
展示のテーマはタイトルの通り「探検!」。来館者もまた探検家となり、アマゾンの自然や文化を五感で感じ、探求する体験型の展示に仕上げました。そして自ら手を挙げて企画した参加者の感性と創造力が加わったことで、この展示は、まさにアマゾンそのものが持つ多様性を象徴する内容となったと思います。
アマゾンの多様性と市民の気付き
アマゾンの最大の魅力は、その多様性です。無数の動植物が共存し、数え切れないほどの文化が織りなされています。この展示を通じて生まれた市民たち(探検家)の気付きもまた、多彩であり、新しい視点に満ちていました。
彼らからは、「アマゾンの自然と工芸品の共通点」「現代社会におけるアマゾンの意味」など、さまざまな意見や感想が寄せられ、それらが新たな展示企画のヒントにもなりました。父自身も、こうした展示は自分一人では思い描けなかったと感慨深げに語っていました。
この取り組みは、アマゾンの魅力を鶴岡市に根付かせただけでなく、参加者自身が新しい視点を得る貴重な機会にもなりました。アマゾンはもはや遠い異国の地ではなく、私たちの日常や未来とつながる存在であることを示してくれました。
日本にあるアマゾンへぜひお越しください
アマゾン資料館は、日本国内でアマゾンの文化と自然に触れることができる数少ない場所の一つです。このような先住民族の文化や自然資料が一堂に揃う場所は、ブラジル国内でも少なくなりつつあります。ですから、ブラジルから日本を訪れる方々が鶴岡市に足を運ぶ際には、ぜひこの特別な空間を体験していただければと思います。そして、日本にいながらにしてアマゾンの多様性や奥深さを感じていただければ幸いです。
私たちが今回の展示を通じて学んだのは、地域の多様性を育み、共有することの大切さです。これらの資料の魅力を次世代に伝えるため、現在も譲渡先を探していますが、その一方で「今この瞬間にしか触れることのできない価値」も確かに存在しています。
いつか、アマゾンの無限の可能性を皆さまと共に探求できる日を楽しみにしております!
山口考彦氏
1976年ブラジル・ベレン市生まれ。アメリカへ留学し、コロラド大学で人類学を学ぶ。政策研究大学院大学の修士課程修了(修士)。
青年海外協力隊やJICAなどに所属し、国際協力に従事した。2019年、父・吉彦氏が収集したアマゾンコレクションの保存活用を目的として、
一般社団法人アマゾン資料館を立ち上げ、代表理事に就任。